5月のこと

 

5月の初めに鎌倉に行った。サークルの友人達との日帰り旅行で、ぼくは車を運転した。その日はゴールデンウィークの初日で、東海方面へ向かう高速道路はとても混んでいた。渋滞に巻き込まれた車の中で、ぼくらはしりとりをして時間を潰した。

鎌倉に着いたぼくらは、インターネットのまとめサイトで見つけた店で昼ごはんを食べることにした。同じようにしてこの店を見つけたであろう、たくさんの観光客の中で、ぼくらは順番が来るのを待った。待ち時間の途中、ぼくと友人は使えるトイレを探しに町へ出た。昼過ぎの鎌倉は観光客でごった返していて、近くのコンビニにはトイレ待ちの列ができていた。ぼくと友人は、生涯学習センターという名前のくすんだ建物に入って、そこでトイレを借りた。少し寒くて静かなロビーでは、お年寄りたちが囲碁や将棋をしたりしていた。彼らが過ごすその時間は、楽しいとか楽しくないとかそういう言葉で測る類のものではないように思えた。そこにはただ、囲碁や将棋をしているという事実だけがあった。彼らはただ囲碁や将棋をしているのだった。建物を出たぼくは、楽しそうだった、と友人に言った。そうだね、と言ってその友人は少し笑った。

 昼ごはんを食べたあと、鶴岡八幡宮高徳院の大仏を見て、それから江ノ島を望む海岸へと向かった。夕日が見えるはずの時間だったけれど、あいにく空は薄い雲に覆われていた。波打ち際の黒い土のような砂の上を、ぼくらはゆっくりと歩いた。砂浜にはそこを訪れた人たちの落書きがまばらに残されていて、それは大きなハートマークの中に書かれた恋人達の名前であったり、友情の証であったりした。けれど、黒い土の中に書かれたそれらは、それらが表そうとしているものから生まれたものではないように思えた。

夜になり、鎌倉に一つしかないという温泉に入ってから、大船のやよい軒で夜ご飯を食べて、それから東京へ帰った。帰路の途中、高速道路の乗り換えを間違えて、湾岸線に出た。車のまばらな湾岸線を走りながら、ぼくは遠くに望むビル群の夜景を見ていた。

 

次の日も友人との約束があった。六本木のジャズバーに行くという少し背伸びしたイベントを、前々から企んでいたのだ。けれど、夕方ごろに友人から連絡が来て、結局その約束はなかったことになった。その夜は、バイトに行った。

 

それから 1日をあけて、引退したサークルの新歓合宿に参加して、それで、ゴールデンウィークは終わった。